ベトナム中部の歴史を跨ぐアーチ ナムオー鉄道橋物語

車窓越しに見えるナムオー鉄道橋とクーデー川河口の風景
目次

海風の向こうに見えたアーチ

ダナンから北へ向かう国道を走っていると、不意に視界の端に淡い緑の鉄骨が現れた。

海から吹きつける風は湿り気を帯び、空は低く垂れ込めている。

その中で、アーチを描く鋼材だけが、潮と時をくぐり抜けてきた者のように静かに立っていた。
これがナムオー鉄道橋だ。

フランス植民地時代の誕生

この橋が完成したのは1936年頃、まだベトナムがフランスの植民地下にあった時代だ。

南北を結ぶ統一鉄道の一部として、クーデー川河口に架けられた。

鉄路が通じると、米も魚も人も遠くへと運ばれ、ダナンの町は一気に息を吹き返した。

戦火にさらされた日々

しかし、橋の運命は穏やかではなかった。

1960年代、ベトナム戦争が激化すると、この鉄路は戦略的要衝となり、幾度も攻撃を受けた。

1967年には爆薬で橋脚が崩れ落ち、鉄道も道路も寸断された。

それでも人々は諦めず、臨時の橋を掛け、鉄路を繋ぎ直した。

海風に混じって、焼けた鉄の匂いが漂ったという。

統一鉄道復旧から現代へ

1975年の南北統一後、ナムオー鉄道橋は再び列車を通し始める。

修繕され、補強され、2000年代には日本のODA支援で大規模改修も受けた。

そして今も、淡い緑のアーチは、潮風を浴びながら南北を行き交う列車を支えている。

基本情報

項目内容
橋名ナムオー鉄道橋(Cầu Đường sắt Nam Ô / Nam Ô Railway Bridge)
所在地ベトナム・ダナン市北部(クーデー川河口)
完成年1936年頃(南北鉄道全線開通時期)
橋の種類鉄道用スチールトラスアーチ橋
主な歴史フランス植民地時代建設、ベトナム戦争期に損傷・再建、2000年代に補修
現在の役割南北統一鉄道(ハノイ〜ホーチミン市)を支える現役橋梁
象徴的意味地域の発展・戦争の証人・交通と歴史の要所
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