橋の世界へようこそ――日本の橋梁形式物語
空を見上げれば飛行機、目線を下げれば道路、そして川や谷を越えるために架けられた橋。私たちの日常に欠かせない「橋」だが、その構造や種類について意識したことはあるだろうか。
日本全国に約73万橋もの道路橋が存在しており、それぞれが異なる地形や用途、時代背景に応じて設計されている。今回は、橋の基本形式「桁橋」「アーチ橋」「ラーメン橋」の3つに焦点を当て、それぞれの特徴や採用率の違いを物語風に紐解いていく。
圧倒的主役・桁橋の世界
日本の橋の約76%を占めるのが「桁橋(けたばし)」である。床版橋を含めると実に94%が桁系の橋梁形式で、まさに橋梁界の「主役」といえる。
桁橋の最大の特徴はそのシンプルさだ。橋脚や橋台の上に主桁を載せ、その上に床版を設けるだけの基本構造で、施工が容易でコストも抑えられる。川幅がそれほど広くない場所や、平坦な地形では桁橋が第一選択となるのも納得である。
主桁と橋脚の間には「支承(しょうしょう)」という可動部材が設けられ、温度変化や荷重による伸縮・回転を吸収する仕組みになっている。
美しき曲線・アーチ橋の魅力
全国平均ではわずか2%という少数派だが、アーチ橋は景観的にも構造的にも魅力的な橋梁形式である。
アーチ橋の最大の強みは、荷重を「圧縮力」として支点に伝えることだ。桁橋が曲げモーメントに抵抗するのに対し、アーチ橋はアーチ形状によって力を効率的に分散させるため、長大橋梁にも対応できる。
大阪市は全国的にも例外的で、昭和戦前期の橋梁記録では桁橋26橋に対しアーチ橋21橋と拮抗している。「水都」として舟運や景観を重視した結果、アーチ橋が多く採用されたのである。
知られざる実力派・ラーメン橋
全国でわずか2%の採用率ながら、技術的には非常に優れた橋梁形式が「ラーメン橋」である。
ラーメン橋の最大の特徴は、主桁と橋脚を剛結合(一体化)させることで支承を設けない、または最小限にする点だ。ドイツ語の「Rahmen(骨組み・フレーム)」が名前の由来で、まさに一体化したフレーム構造が特徴である。
この構造により耐震性が高まり、支承が不要になる分建設コストも削減できる。桁下空間を広く確保できるため、市街地を通る高速道路や山間部の跨道橋に多く採用されている。
Tラーメン橋、V脚ラーメン橋、ポータルラーメン橋、π型ラーメン橋など、多様なバリエーションがあるのも特徴だ。
なぜラーメン橋は少ないのか
技術的に優れたラーメン橋だが、採用率が低い理由もある。
平坦な地形や一般道路では、シンプルで施工が容易な桁橋の方が汎用性が高く、設計・施工のノウハウも豊富である。また、ラーメン橋は剛結構造のため、温度変化による応力集中への配慮や、より精密な構造計算が求められる。
大阪市のような平坦な都市部では、桁橋とアーチ橋で十分に機能し、わざわざラーメン橋を選ぶ必要性が低かったのである。
まとめ――橋が語る土木の物語
日本の橋は、桁橋が9割以上を占める「桁橋大国」である。しかし大阪のようにアーチ橋が多い地域や、山間部・高速道路でラーメン橋が活躍する場所もあり、それぞれの橋が地形・用途・時代背景を反映した物語を持っている。
次に橋を渡るときは、ぜひその構造形式に注目してみてほしい。桁橋のシンプルさ、アーチ橋の優美さ、ラーメン橋の技術力――それぞれが語る橋の物語が、きっと見えてくるはずである。

