大手橋 大阪城の正門に通じる橋【大阪市中央区】

大手橋【大阪市中央区】

大手門は、城の正門にあたる。大阪で城といえば当然大阪城で、だからつまり大手橋というのは、大阪城の正門に通じる橋だ。と言うとまるで威風堂々、さぞ立派なものなのだろうという感じだが、実際の大手橋は高速道路に隠れてちょんと建っている。
大手橋が架かる東横堀川は、土佐堀川の上流から南に分岐して道頓堀川に流れ込む。この真上を阪神高速の環状線が通っているため東横堀川は常に日陰で、そこに架かる橋もまたなかなか日の目を見ない。そういう訳で大手橋の存在感も控えめだが、コンクリートのアーチ橋はシンプルながら重厚感があり、趣ある橋ではある。

〈江戸時代〉

大手門が名前の由来の橋なのだから、大阪城ができたころからあったのだろうと思うけれど、もともとこの橋の名前は思案橋といった。丁字路に架かっているため東詰から橋を渡ると行き止まりで、右へ行くか左へ行くか思案するから思案橋、ということらしい。橋を渡る前から行く道は決まっていると思うのだけれど、見知らぬ町をふらふら散歩していたのであれば、まあ確かに思案するかもしれない。
大手門が思案橋と呼ばれていた理由には他にも説があって、豊臣秀吉に橋の命名を任された増田長盛が、いくら思案してもなかなか名前を決められなかったからだとか、同じく秀吉に命名を任された曽呂利新左衛門が思案したからだとか言われている。
大手橋が架かる道が丁字路なのは、大手門へ一直線にたどり着けないように配慮したためではないかという説もある。こうした話からは、大手橋は豊臣のころに架けられたものと考えられるけれど、その確たる証拠はない。ただ少なくとも、江戸時代初期にはすでに架けられていたものらしい。当時の規模は橋の長さ54.1メートル、幅員3.9メートルで、さほど大きい橋ではなかった。
ちなみに思案橋という名前の橋は色々なところにあり、たいていは遊郭の入り口だった。遊びに行こうか行くまいか、と悩むからだとか。しかし大阪の一大遊郭・新町の入り口に架かっていたのはそのままずばり新町橋といって、思案橋と呼ばれていたという話は聞かない。どうやら大阪の男たちは、遊郭へ行くのに何ら迷いがなかったようである。

ところで、天野屋利兵衛という商人がいる。「忠臣蔵」に登場し、赤穂浪士を支援したことで有名だ。利兵衛は浪士たちのために槍を準備していたところを見咎められ、町奉行に捕まり拷問にかけられる。しかし「天野屋利兵衛は男でござる」と、頑として口を割らなかったという。
この天野屋利兵衛の屋敷が、大手橋の近くにあったらしい。場所は橋筋の一本北、内淡路町と東横堀川の川沿いの道の交差点の東南角。天野屋は江戸時代初期から続く商人で、北組惣年寄を務めていた。町内会の一番偉い人、と言っていいだろう。もっとも、「忠臣蔵」に描かれるような活躍は、実際にはなかったようだが。

〈明治以降〜〉

橋筋が大手通と呼ばれるようになったのは、明治3年(1870年)3月以降のことらしい。大手橋という名前になるのはもっと後で、大正2年(1913年)発刊の『大阪府治要覧』ではまだ思案橋と記されている。なお、『大阪府治要覧』は国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧できる。
現在の大手橋が建設されたのは大正15年(1926年)6月、第一次都市計画に伴ってのこと。この時橋の長さは49.5メートル、幅員は9.4メートルで、江戸時代の2倍以上に拡幅されている。

〈現在〉

建設から60年以上経った平成元年(1989年)に改修工事が行われたが、その姿は大正末期(というか昭和元年と同じだが)につくられた当時のままをとどめている。
大阪城へのアクセスは大阪城公園駅や森ノ宮駅が使われるので、大手橋を通って大阪城に行くということはあまりない。そこをあえて、大手橋を渡り、大手通を歩いて、大阪城へ向かってみる。どどんと構える大手門に迎えられるのは、なるほどいかにも「城に来た!」という感じがする。大阪城公園駅や森ノ宮駅ではこうはいかない。

〈大手橋概要〉

橋長:49.55m
幅員:10.0m
形式:アーチ橋
完成:大正15年
行政区:中央区
京阪・地下鉄北浜駅が最寄りだが、10分近くは歩く。それより大阪城の大手門を出て大阪府庁を右手に進み、大手通をまっすぐ、といったほうが分かりよいだろう。

〈参考資料〉

「大阪の橋」 松村博 松籟社 1992年

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